「地下原発――共存のための選択」 1991年刊 山本拓著

 原子力発電の地下立地は安全・安心なエネルギーを将来に残すために絶対に必要な課題のひとつで す。

 原子力発電の現状を把握し、地下原発の可能性を模索する取り組みの中で、1991年には『地下原発――共存のための選択』という本を出版いたしました。
 データなど当時のものではありますが、参考までに序文を掲載しておきます。

 環境・エネルギー政策のあり方が見直される今後、安全・安心な原子力発電の新しいあり方として実現に向けて、より力を入れていこうと思っている次第であります。

 ★著書 『地下原発――共存のための選択』(1991年刊)の全文をお読みいただけます


 

 原子力発電所を地下に設けるという計画は、かなり以前から関係者の間で研究が進められてきた。
 わが国が『原子力発電所の地下立地』というテーマに、本腰を入れて取り組み始めたのは、昭和52年である。その年、通産省資源エネルギー庁内に「地下立地 方式原子力発電所検討委員会」が設置され、以後、技術指針の確立が図られてきた。
そもそも原子力発電所を地下に造ろうという発想は、従来の地上式発電所の立地点確保が難しくなってきたことから、生まれたものである。


 原子力発電立地の推進はその期待と努力の大きさに比し、具体化がかならずしも円滑に進んでいるとはいえない面もある。
このため、狭小な国土とその土地利用の制約条件を緩和し、発想の転換によって立地選択幅の拡大を計ろうとする新立地方式による原子力発電所の検討が行われて来ている。
 とくにわが国は、山地が国土の70%を占め平地の少ない地形であることから、この特徴を生かした新立地方式の1つとして、地下式原子力発電所が、土地有効 利用面、景観保全面等からも利点を有し、早期に立地拡大に寄与する上で非常に有望であると考えられた。

 右は、電気協会雑誌〔昭和56年2月号)に掲蔵された資源エネルギー庁原子力発電課核燃料係長の寄稿文の一部である。
「地下立地方式原子力発電所検討委員会』の設置から5年目、米国スリー・マイルアイランド原子力発所の事故から2年後の記事である。
 従来型の原子力発電所を立地するためには

1-地元の合意、
2-広い敷地
3-良好な岩盤
4-大量の冷却用水

という4条件が諾わなければならない。
 わが国の場合、4-の冷却用水を海水に求めなければならないため、原子力発電所はすべて海岸部に立地している。
もともと国が狭いうえに、2-の広い敷地、3-の良好な岩盤という条件が加わるから、立地可能な場所の数には限りがある。
 しかも、現実的には、1-の地元の合意が最大の難関となっている。

 エネルギー需要は年を追うごとに増大し、なおかつ石油依存からは抜け出さなければならない。
 政情不安な中東など開発途上国からの輸入に頼っている石油では、電力の安定供給に不安がつきまとう。
 化石燃料を燃やすことで、大気中の一酸化炭素の濃度が高くなれば、地表から宇宙空間へ逃げる熱が封じ込められて、地球全休の気温が上昇する。
 この二酸化炭素の温室効果による地球温暖化や、酸性雨による梅林破壊は、将来的には人類の生存そのものにかかわる深刻な問題である。
 原子力発電は、放射線の管理と放射性廃棄物の処理処分が安全に行われるならばという条件つきではあるが、火力発電と比べて、はるかにクリーンであり、環境に与える悪影響の少ない発電方法である。
 量的・コスト的に、火力発電に代わりうるエネルギー源は、当面、原子力しかない。にもかかわらず、原子力発電所の立地は、ソ連のチェルノブイリ事故以来、遅々として進まない。
 それに追い打ちをかけた美浜2号機の蒸気発生器細管破断事故は安全装置が機能し、周辺環境に悪影響を集える事態には至らなかったものの、わが国の原子力発電技術への信頼を大きく損なう結果となった。
 これからの新規立地点確保は、さらに困難が予想されている。


 わが国の原子力行政は、推進が後退かの瀬戸際に立たされている。
 現在、わが国で運転中の原子力発電所は41基、建設中は11基、建設準備中のものは、わずか3基である。
立地計画は、地元自治体住民の同意が得られないために、相次いで挫折している。
 「原子力発電は必要だとは思うが、不安だ」というのが、意識調査における国民の回答である。
 その根強い不安を取り除くことが、わが国の原子力行政にいま求められている。
 本書で以下に述べるとおり、原子力発電所を地下に立地するための技術上の課題は、ほぼクリアーされており、フランスではセナショーズ発電所が実際に営業運転を行っている。
 建設に要するコスト面の問題も、発電機器メーカーの工場で、組み立てた原子炉やタービンなどのパッケージを船で搬入する方式をとるならば、地上式よりも安く、より短い工期で建設が可能である。
しかも、地下立地は、自然景観を損なうことが、地上式より少なくてすむと同時に、安全の上に安全を重ねるという『多重防護』の思想に、よりかなうものである。
 発電所近隣住民に与える安心感は、地上式よりはるかに大きい。
 原力発電所の地下立地は、次のような利点を挙げることができる。


-海岸の急峻な末利用地が活用でき、用地難を解消することができる。
 広い平坦な上地を必要としたいため、海岸まで山が迫っていて、地上式では建設が難しい急峻な地形の地点でも建設が可能であり、立地選択の幅が広がる。
-地上の自然環境を保全できる。
 景観に与える影響が小さいため、国立公園内などで建設する場合に有利である。
-都市など需要地に接近して建設ができ、送電距離を短縮できる。
 送電ロスの減少、建設費の低減に結びつく。
-地下設置によって耐震性が向上する。
 地下の地震動は、地上よりも最大振幅が小さくなることなどから、耐震設計上有利となる。
-地下空洞の周辺岩盤による放射線の遮蔽効果、および放射性物質の格納効果が期待できる。
 地下格納空洞は、平常時における放射性物質の管理に有効であるとともに、事故時などにおいても、放射悦物質を長期間、封じ込めておくことができ る。
 また、地下空洞そのものが強力な耐圧格納容器の役目を果たすため、事故時の周辺環境への影響を最小限にする効果か期待できる、
-不測の空中からの落下物、テロ行為などに対しても、より安全性が確保できる。
 部外者の接近が難しく、発電所施設への侵入防止対策上、有利である。
-将来の廃炉時における原子力施設の処理処分、長期密閉管理が容易である。
-建設工事において、台風・雨・雪などの気象条件に左右される度合が少ない。
-以上の理由から、国民のコンセンサス、地域の人々の理解と同意が得やすい。


 地下式原子力発電所は、施設の拡張や計画変更の場合、融通性に欠けるというデメリットはあるものの、建設する上での技術上の課題をほぼクリアーし、コスト面、技術面、環境保全面、安全面などほとんどすべてにわたって地上式よりも優れている。
 にもかかわらず、わが国において実現していないのは、現在進行中の、地上式原子力発電所の立地にブレーキがかかることを、国や電力業界が懸念しているから である。「原子力発電所は危険だから、地下に造ろうとしている。現在進んでいる地上式発電所の計画も、地下に変更しろ」という声の高まりを警戒しているのである。
 現在の地上式のままでも、わが国の原子力発竃所は、安全システムを整えており周辺環境に悪影響を及ぼすことは、まずないと言ってよい、実際には、地下にまでもっていかなくても安全は確保されているのだが、そうすることで人々が「地下なら万一の場合でも大丈夫だろう」と安心し、原子力発電所の立地に対して支持を広げられるのであれば、地下立地を選択すべきであると私は考える。

 ソ連の故サハロフ博士も、チェルノブイリ事故を教訓として原子力発電所の事故による大気汚染を防ぐために、原子炉を地下に設置することを提唱してい る。
 原子力発電所の耐用年数は長くて30-40年とされているから、新規に立地を計画するものをすべて地下式にするならば、50年後には、ほとんどすべての原子力発電所が地下に移されることになる。
 50年後を見通して、いま、地下立地への転換を図らなければわが国の原子力発電所立地は下りのエスカレーターを歩いて昇らなければならないような苦難を今後もずっと強いられることになる。
 原子力発電所の地下立地という選択肢は、多くの利点をもち、原子力行政に対する国民的コンセンサスの形成に大きく役立つと私は確信し、平成3年4月、自由 民主党の衆・参両院議員による『地下原力発電所研究議員懇談会』を組織した。
 原子力発電は、改めて言うまでもなく、原子力の平和利用である。
 それが厳しく監視され、安全が十分に確保されるならば、反対する理由は何もない。
 むしろ、火力発電と比べれば地球環境保全に役立ち、私たちの豊かな生活を支える重要なエネルギー源である。
 原子力発電に対する国民の不安感と、その上に乗って展開されている反対運動が、原子力の平和利用という本来の目的まで頓挫させてしまうことを、私は危惧し ている。
 私は、同議員懇談会の事務局長として、また、原発銀座と呼ばれる福井県選出の衆議院議員として、本書によって原子力発電所地下立地選択の是非を広く世に問いたいと思う。

「地下原発 — 共存のための選択」 1991年出版 序文より)

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